体育教師 森山由佳子

2026.06.30
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翌週の月曜日。
朝のホームルームが終わると、山本が俺の席に寄ってきた。
どこか得意げな顔をしている。
「おい山田、昨日部活の後で森山先生に少し声かけたんだよ。
野球部の用事で体育館の近くを通ったら、タイミングよく先生が出てきてさ。
『お疲れ様です』って挨拶したら、先生も『山本くん、最近部活どう?』って聞いてくれたぜ」
山本は少し胸を張って続けた。
「最初はただの挨拶だけだったけど、部活のつながりで話す機会が増えてきた感じだな。
意外と気さくで話しやすいよ。
明るくて元気な人って感じで……まあまあいいよな、森山先生」
俺の胸の奥が、むっとした。
「……へえ」
山本は俺の反応などお構いなしに、調子よく話を続ける。
「俺、補欠だけど部活で顔を合わせる機会はあるからさ。
少しずつ話せるようになってきてるんだよな。
山田みたいに遠くから見てるだけじゃなくて、ちゃんと会話できてるってのが違うよ。
多分俺なら、もっと話せるようになると思うぜ」
その言葉が、俺の心に棘のように刺さった。
先生は俺にとって特別な存在だ。
高校1年生の頃から想い続けて、修学旅行でツーショット写真を撮れただけで何日も浮かれていたのに……。
山本みたいな奴が、部活のつながりで「少しずつ話せるようになってきた」と自慢げに言うなんて。
不愉快だった。
本当に、胃の辺りが重くなるような不愉快さだった。
「そう……か。先生は誰にでも優しいからな」
俺がなんとかそう返すと、山本は笑った。
「ははっ、まあそうかもな。でも俺はちゃんと名前覚えてもらってるみたいだし、部活の話も少しできたからさ。
お前が本気で好きだって言うなら遠慮するけど……どうよ?」
俺は無理に笑顔を作ったけど、口の中が苦かった。
まだ大した会話じゃないはずなのに、山本はすでに「自分は先生と繋がってる」みたいな顔をしている。
それが、たまらなく腹立たしかった。


昼休み。
俺が一人で校庭のベンチに座っていると、山本がまた近づいてきた。
弁当を食べながら、平然と言った。
「今日も部活前に先生と軽く会ったよ。
『頑張ってね』って声かけてもらった。
少しずつだけど、こういう積み重ねが大事だよな」
俺は弁当を握る手に力が入った。
先生の優しい声。
あの笑顔。
それを、山本が少しずつ自分のものにしているような気がして、胸がざわついた。
「……お前、先生のことそんなに気にしてたっけ?」
「まあ、最近ちょっと気になり始めたかな。
明るくて元気で、話してて気持ちいいよ。
まあまあいい感じだと思うぜ」
山本のその言葉を聞いて、俺は黙ってうつむいた。
不愉快で、不愉快で仕方なかった。


その夜。
家に帰って部屋の電気を消し、俺はベッドに座った。
スマホの画面には、森山先生とのツーショット写真が映っている。
先生の笑顔は相変わらず優しい。
でも今日は、その笑顔を山本も見ているんだと思うと、興奮するよりも先に苛立ちが勝った。
「山本の奴……なんであいつなんだよ」
小さく呟きながら手を動かし始めたけど、いつものように先生のことを純粋に想像できなかった。
頭の片隅に、山本が「少しずつ話せるようになってきた」「多分俺なら」と自慢する顔が浮かんでくる。
不愉快な気持ちを抱えたまま、俺は虚しく果てた。

それからというもの、山本は部活のたびに俺に自慢げに話すようになった。
「今日も先生に頼まれごとされてさ、体育倉庫の片付け手伝ったんだよ。
部活のつながりで話す機会、結構増えてきてるぜ。
先生『山本くん助かるわ~』って笑ってくれたし、俺、意外と信頼されてんのかもな」
俺は毎回、苦い気持ちで聞いていた。
実際はただの生徒として軽く頼まれているだけなのに、山本はそれを「特別扱いされている」と勘違いしているのが丸わかりだった。
童貞のくせに、妙な自信だけは一人前だ。
「へえ……そうなんだ」
「まあ、俺みたいな補欠でもコツコツ顔出してると、話せるようになるもんだよ。
山田にはないアドバンテージだな」
不愉快だった。
先生の近くにいるというだけで、山本が俺の上を行っている気がして、胸がざわついた。
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