作品紹介
郁夫は菜月のインスタを食い入るように見つめていた。
プロフィールの写真から投稿をひとつひとつ遡っていく。白いワンピース姿の清楚な笑顔、キッチンで料理をしている後ろ姿、休日に公園で撮ったような柔らかい表情。どれもが彼の目には、たまらなく色っぽく映った。
「……いい女だな、マジで」
小さく呟きながら、さらにスクロールする。すると、悠真とのツーショット写真が何枚か出てきた。並んで座っている写真、軽い食事の席で撮ったもの、少し距離を置いて写っているもの。どれも菜月が自然に微笑んでいる。
郁夫の顔が、歪んだ。
「なんであんな無口で地味なやつと……」
身勝手な感情が、胸の奥から湧き上がってくる。羨ましくて、腹立たしい。自分には固定の女性などいない。女好きと陰口を叩かれても、実際にはモテない。飲み会で声をかけても空振りばかりで、気づけば一人で酒を飲み干しているような男だ。その自分が、悠真の隣で穏やかに笑っている菜月を見ていると、どうしようもなく惨めになった。
「チッ……俺が先に見つけてればな」
画面に映る菜月の胸元や、微笑む唇を眺めながら、郁夫は一方的な好意を、どんどん性欲に変えていった。頭の中ではすでに、彼女を自分の部屋に連れ込んだ妄想が膨らんでいる。それでも表向きは、周囲に悟られないよう、スマホを机の陰に隠すようにして見続けた。
「この胸……飲み会のときより強調されてるな」
「こんな顔で俺の上に跨がってきたら、たまんねえだろ」
「悠真なんかに抱かれてるのがもったいねえよ。俺がめちゃくちゃにしてやりたい」
卑猥な言葉を、誰に聞かせるでもなくポツポツと漏らす。油ぎった指で画面を拡大しては、菜月の写真をじっと見つめた。
そんな中、ふと目に留まった投稿があった。
『来週の土曜日、久しぶりにゆっくりデート♡』
日付が入ったストーリーのスクショか、投稿のキャプションにそう書かれている。
郁夫の目が一瞬、鋭く細められた。
「……来週の土曜日、か」
スマホを握る手が、小さく熱を帯びた。
翌朝。
郁夫はいつものように油ぎった顔で倉庫に現れると、いきなり悠真のところへ大股で近づいていった。
「おい、悠真!」
怒鳴るような声に、周囲の社員がびくりと肩を震わせる。悠真は荷物の仕分けを中断し、ゆっくりと顔を上げた。
「お前、昨日結構ミスしてたよな。伝票の数字が全然合ってねえし、届け先も二件間違えてる。これ、どうすんだよ」
実際は郁夫がわざと数字を書き換えて工作したミスだった。だが悠真は反論しなかった。自分の確認不足と言われれば、否定する材料もない。
「……すみません」
「すまないじゃ済まねえだろ。このままじゃ上にも報告しなきゃなんねえ。とりあえず、今週末の土曜日、出勤しろ。休日出勤で穴埋めだ」
悠真の眉が、ほんのわずかに動いた。
「その日は……予定が」
言い淀むようにそう口にしたが、郁夫はすぐに被せた。
「予定? 仕事でミスったやつの予定なんか知らねえよ。文句あるならしっかり確認しろ。いいな?」
結局、悠真は短く「……わかりました」とだけ答え、うつむいて作業に戻った。
その夜。
悠真は自宅に帰ると、すぐに菜月へ電話をかけた。
「もしもし。俺だ」
「あ、悠真。どうしたの?」
「土曜日の件なんだけど。仕事の都合で無理になった。すまない」
菜月の声が、明らかに落胆したように沈む。
「えー……なんで? せっかく予定入れてたのに」
「仕事だから。ミスした分の穴埋めで休日出勤だ」
いつものように簡潔で、感情の起伏がほとんどない話し方だった。菜月が何か言いかけたところで、悠真は続けた。
「疲れてるから、また改めて予定決めよう。じゃあな」
そう言い残して、電話はあっさり切れた。
菜月はスマホを持ったまま、ワンルームの真ん中でしばらく立ち尽くした。
「……はあ?」
小さく呟いたあと、彼女はベッドに倒れ込み、枕を抱きしめて暴れるように左右に転がった。
「もう! せっかく楽しみにしてたのに! 仕事仕事って……!」
声にならない叫び声を上げながら、足をばたつかせる。しばらくして落ち着いた彼女は、結局また悠真に連絡を取り、次の予定を相談した。
話し合いの結果、再来週の日曜日に延期することで合意。
菜月は少し拗ねたまま、インスタのストーリーに短い文章を上げた。
『デート延期……次は絶対! 再来週の日曜日に♡』
その投稿は、当然のように郁夫の目にも留まることになった。
プロフィールの写真から投稿をひとつひとつ遡っていく。白いワンピース姿の清楚な笑顔、キッチンで料理をしている後ろ姿、休日に公園で撮ったような柔らかい表情。どれもが彼の目には、たまらなく色っぽく映った。
「……いい女だな、マジで」
小さく呟きながら、さらにスクロールする。すると、悠真とのツーショット写真が何枚か出てきた。並んで座っている写真、軽い食事の席で撮ったもの、少し距離を置いて写っているもの。どれも菜月が自然に微笑んでいる。
郁夫の顔が、歪んだ。
「なんであんな無口で地味なやつと……」
身勝手な感情が、胸の奥から湧き上がってくる。羨ましくて、腹立たしい。自分には固定の女性などいない。女好きと陰口を叩かれても、実際にはモテない。飲み会で声をかけても空振りばかりで、気づけば一人で酒を飲み干しているような男だ。その自分が、悠真の隣で穏やかに笑っている菜月を見ていると、どうしようもなく惨めになった。
「チッ……俺が先に見つけてればな」
画面に映る菜月の胸元や、微笑む唇を眺めながら、郁夫は一方的な好意を、どんどん性欲に変えていった。頭の中ではすでに、彼女を自分の部屋に連れ込んだ妄想が膨らんでいる。それでも表向きは、周囲に悟られないよう、スマホを机の陰に隠すようにして見続けた。
「この胸……飲み会のときより強調されてるな」
「こんな顔で俺の上に跨がってきたら、たまんねえだろ」
「悠真なんかに抱かれてるのがもったいねえよ。俺がめちゃくちゃにしてやりたい」
卑猥な言葉を、誰に聞かせるでもなくポツポツと漏らす。油ぎった指で画面を拡大しては、菜月の写真をじっと見つめた。
そんな中、ふと目に留まった投稿があった。
『来週の土曜日、久しぶりにゆっくりデート♡』
日付が入ったストーリーのスクショか、投稿のキャプションにそう書かれている。
郁夫の目が一瞬、鋭く細められた。
「……来週の土曜日、か」
スマホを握る手が、小さく熱を帯びた。
翌朝。
郁夫はいつものように油ぎった顔で倉庫に現れると、いきなり悠真のところへ大股で近づいていった。
「おい、悠真!」
怒鳴るような声に、周囲の社員がびくりと肩を震わせる。悠真は荷物の仕分けを中断し、ゆっくりと顔を上げた。
「お前、昨日結構ミスしてたよな。伝票の数字が全然合ってねえし、届け先も二件間違えてる。これ、どうすんだよ」
実際は郁夫がわざと数字を書き換えて工作したミスだった。だが悠真は反論しなかった。自分の確認不足と言われれば、否定する材料もない。
「……すみません」
「すまないじゃ済まねえだろ。このままじゃ上にも報告しなきゃなんねえ。とりあえず、今週末の土曜日、出勤しろ。休日出勤で穴埋めだ」
悠真の眉が、ほんのわずかに動いた。
「その日は……予定が」
言い淀むようにそう口にしたが、郁夫はすぐに被せた。
「予定? 仕事でミスったやつの予定なんか知らねえよ。文句あるならしっかり確認しろ。いいな?」
結局、悠真は短く「……わかりました」とだけ答え、うつむいて作業に戻った。
その夜。
悠真は自宅に帰ると、すぐに菜月へ電話をかけた。
「もしもし。俺だ」
「あ、悠真。どうしたの?」
「土曜日の件なんだけど。仕事の都合で無理になった。すまない」
菜月の声が、明らかに落胆したように沈む。
「えー……なんで? せっかく予定入れてたのに」
「仕事だから。ミスした分の穴埋めで休日出勤だ」
いつものように簡潔で、感情の起伏がほとんどない話し方だった。菜月が何か言いかけたところで、悠真は続けた。
「疲れてるから、また改めて予定決めよう。じゃあな」
そう言い残して、電話はあっさり切れた。
菜月はスマホを持ったまま、ワンルームの真ん中でしばらく立ち尽くした。
「……はあ?」
小さく呟いたあと、彼女はベッドに倒れ込み、枕を抱きしめて暴れるように左右に転がった。
「もう! せっかく楽しみにしてたのに! 仕事仕事って……!」
声にならない叫び声を上げながら、足をばたつかせる。しばらくして落ち着いた彼女は、結局また悠真に連絡を取り、次の予定を相談した。
話し合いの結果、再来週の日曜日に延期することで合意。
菜月は少し拗ねたまま、インスタのストーリーに短い文章を上げた。
『デート延期……次は絶対! 再来週の日曜日に♡』
その投稿は、当然のように郁夫の目にも留まることになった。