榊原朋花 18歳 LJK レスリング部

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作品紹介

放課後の青凪総合高校。

榊原朋花の高校生活は、レスリング部を中心に回っていた。けれど三年生になった春から、そこに少しだけ別の色が混じり始めていた。

同じクラスの朝倉蓮。背が高く、目立つ容姿なのに妙に気取らない男子だった。

最初は朋花の友人たちが面白がっていただけだった。

「朋花、朝倉また見てたよ」

「見てないでしょ」

「いや、見てたって」

朋花は笑って流す。しかし、朝倉が練習後の朋花を待っていたり、コンビニへ寄る数分だけ一緒に帰ったりすることが増えると、さすがに本人も意識し始めた。

ある日、朝倉が何気なく言った。

「次の試合、見に行っていい?」

「……なんで?」

「榊原が出るから」

朋花は一瞬黙った。

「そういうこと普通に言う?」

「ダメだった?」

「ダメじゃないけど……」

その日の朋花は、別れたあともしばらく一人でニヤけていた。

一方、レスリング部ではそんな浮ついた様子をほとんど見せない。

五十代のコーチから課される練習は厳しかった。

「榊原、もう一本!」

「はい!」

息を切らし、汗だくになっても立ち上がる。

「お前ならもっと上まで行ける。そこで妥協するな」

その言葉を朋花は信じていた。

だから、練習後にコーチから「話がある」と監督室へ呼ばれたときも、最初は試合についての話だと思った。

ところが話は妙な方向へ進んだ。

フォーム確認を口実に、着替えに関する不自然な要求を遠回しに持ち出してくる。

朋花の表情から笑顔が消えた。

「それ、必要ですか?」

コーチは「競技のためだ」と取り繕う。

朋花はしばらく黙ったあと、はっきり言った。

「嫌です。そういうのなら帰ります」

怖くなかったわけではない。それでも荷物を掴み、そのまま監督室を出た。

廊下へ出た瞬間、朋花はようやく大きく息を吐いた。

ところが。

その一部始終を、少し離れた場所から眺めていた男がいた。

乗っ取り師・滑川たかし。

なぜ高校にいるのか。

どうやって入ったのか。

そもそも何を乗っ取りに来たのか。

それは誰にも分からない。

ただ、監督室から出てきた朋花と、室内で一人取り残されたコーチを交互に見た滑川は、小さく呟いた。

「……なるほどな」

滑川が見ていたのは、朋花ではない。

コーチだった。

欲望を隠しながら「指導者」という立場にしがみつく男。

朋花に拒絶され、計画が崩れて狼狽する姿。

滑川の口元が、わずかに緩んだ。

「こういう奴ほど――乗っ取ったとき、面白いんだよな」

そのころ朋花は、そんな人物が背後にいたことなど知らない。

校門まで来ると、朝倉が待っていた。

「榊原?」

「え?」

「なんかあった?」

朋花は答えようとして、やめた。

「……ちょっとだけ」

いつもなら「別に」と誤魔化していたはずだった。

けれど、その日は違った。

朝倉も無理に聞こうとはしない。

「じゃあ、駅まで一緒に帰ろ」

「うん」

二人の距離が、ほんの少し縮まる。

そして校舎では――朋花の知らないところで、滑川たかしが静かに動き始めていた。
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