作品紹介
駅ビルの壁際で、沼倉知歩はスマートフォンを両手で持っていた。
〈ごめん、あと十分くらい〉
友達からのメッセージに〈大丈夫〉と返す。雑貨店のアルバイトがない夕方に、誰かと夕飯を食べる。それだけで今日は少し楽しみだった。
「待ち合わせ?」
顔を上げると、知らない中年の男が立っていた。
「……はい」
「お、写真よりかわいいね。こっち来る?」
知歩は一瞬、言葉の意味を考えた。それから小さく首を振った。
「あ、人違い、だと思います」
「え、違うの?」
「はい。友達を待ってるので」
男は立ち去らなかった。スマートフォンをしまい、知歩を上から下まで見た。その視線に、知歩はバッグを腹の前へ引き寄せた。
「じゃあ、いくらなの?」
「2とか3でどうかな」
「……そういうのじゃ、ないです」
「いいから。希望だけ言ってよ」
声を大きくするのが苦手だった。相手を遮ろうとすると、喉の奥で言葉がつかえる。けれど、曖昧にしたつもりはなかった。違うと、もう二度も伝えている。
「お断りします」
やっと言えた一言に、男が薄く笑った。
「そんな警戒しなくても。お茶だけでもさ」
知歩が横へ動くと、男も同じ方へ一歩寄った。
急に、周囲の話し声が遠くなった。
「……通してください」
目の奥が熱くなる。ここで泣いたら、ますます喋れなくなる。そのことが怖くて、知歩は唇を結んだ。
「待ってって。まだ何も——」
「やめてください」
自分でも驚くほど、声が震えていた。
男がわずかに足を止めた隙に、知歩はその脇を抜けた。背後から何か言われたが、振り返らなかった。駅ビルの入口へ、ほとんど逃げるように歩く。
自動ドアを通ってから、ようやく息を吐いた。
友達とのトーク画面を開く。指が滑り、何度も文字を打ち直した。
〈中の雑貨屋にいるね。迎えに来てほしい〉
送信すると、こらえていた涙が一滴、画面に落ちた。
*
その一部始終を、広場の反対側から見ている男がいた。
滑川。
「非モテおじさんを救う会」の代表を名乗っている謎のおじ、女性に拒まれた体験を集め、自分たちは不当に扱われているのだと繰り返す。
滑川自身も、女性から距離を置かれることが多かった。自分を「キモいおじ」と呼んで笑う。だが、相手がなぜ離れたのかという話になると、決まって機嫌を悪くする器の小さな男。
広場では、声をかけた男がまだ駅ビルの入口を睨んでいた。
滑川はそちらへ近づくことも、事情を聞くこともしなかった。
見ていたのは、逃げていく知歩の方だった。
断るまでの間。引き寄せたバッグ。泣くのをこらえた顔。
それを見て、滑川は思った。
——少しぐらい、相手をしてやればいいものを。
知歩が何度も断った声は、彼にも聞こえていた。それでも彼の中では、傷つけられたのは取り残された男の方だった。
滑川には、誰にも明かしていない秘密がある。
ある条件がそろえば、他人の身体を乗っ取ることができた。
条件は誰にも教えていない。活動の場でその力をほのめかすことはあっても、尋ねられると笑って話をそらした。
駅ビルのガラス越しに、知歩の姿が見えた。雑貨店の入口でスマートフォンを握り、誰かを待っている。通りかかった店員に声をかけられ、少しだけ肩の力が抜けたようだった。
滑川は、その顔を覚えた。
「……あの女だな」
つぶやきは、広場の雑踏に消えた。
知歩はまだ、自分に向けられた二つ目の視線を知らなかった。
本作品は、AI技術を用いて制作した創作動画・画像作品です。
演出、動き、表情、描写などに一部不自然さを感じる場面がある場合がありますが、AI作品ならではの表現としてお楽しみいただければ幸いです。
登場する人物・設定はすべてフィクションです。
登場人物は全員18歳以上の成人として設定された架空のキャラクターであり、実在の人物・団体・施設・地域等とは一切関係ありません。
本作品の無断転載、再配布、転売、加工、二次利用は禁止いたします。
本作品は、各種利用規約・ガイドラインを遵守した内容で制作しています。
〈ごめん、あと十分くらい〉
友達からのメッセージに〈大丈夫〉と返す。雑貨店のアルバイトがない夕方に、誰かと夕飯を食べる。それだけで今日は少し楽しみだった。
「待ち合わせ?」
顔を上げると、知らない中年の男が立っていた。
「……はい」
「お、写真よりかわいいね。こっち来る?」
知歩は一瞬、言葉の意味を考えた。それから小さく首を振った。
「あ、人違い、だと思います」
「え、違うの?」
「はい。友達を待ってるので」
男は立ち去らなかった。スマートフォンをしまい、知歩を上から下まで見た。その視線に、知歩はバッグを腹の前へ引き寄せた。
「じゃあ、いくらなの?」
「2とか3でどうかな」
「……そういうのじゃ、ないです」
「いいから。希望だけ言ってよ」
声を大きくするのが苦手だった。相手を遮ろうとすると、喉の奥で言葉がつかえる。けれど、曖昧にしたつもりはなかった。違うと、もう二度も伝えている。
「お断りします」
やっと言えた一言に、男が薄く笑った。
「そんな警戒しなくても。お茶だけでもさ」
知歩が横へ動くと、男も同じ方へ一歩寄った。
急に、周囲の話し声が遠くなった。
「……通してください」
目の奥が熱くなる。ここで泣いたら、ますます喋れなくなる。そのことが怖くて、知歩は唇を結んだ。
「待ってって。まだ何も——」
「やめてください」
自分でも驚くほど、声が震えていた。
男がわずかに足を止めた隙に、知歩はその脇を抜けた。背後から何か言われたが、振り返らなかった。駅ビルの入口へ、ほとんど逃げるように歩く。
自動ドアを通ってから、ようやく息を吐いた。
友達とのトーク画面を開く。指が滑り、何度も文字を打ち直した。
〈中の雑貨屋にいるね。迎えに来てほしい〉
送信すると、こらえていた涙が一滴、画面に落ちた。
*
その一部始終を、広場の反対側から見ている男がいた。
滑川。
「非モテおじさんを救う会」の代表を名乗っている謎のおじ、女性に拒まれた体験を集め、自分たちは不当に扱われているのだと繰り返す。
滑川自身も、女性から距離を置かれることが多かった。自分を「キモいおじ」と呼んで笑う。だが、相手がなぜ離れたのかという話になると、決まって機嫌を悪くする器の小さな男。
広場では、声をかけた男がまだ駅ビルの入口を睨んでいた。
滑川はそちらへ近づくことも、事情を聞くこともしなかった。
見ていたのは、逃げていく知歩の方だった。
断るまでの間。引き寄せたバッグ。泣くのをこらえた顔。
それを見て、滑川は思った。
——少しぐらい、相手をしてやればいいものを。
知歩が何度も断った声は、彼にも聞こえていた。それでも彼の中では、傷つけられたのは取り残された男の方だった。
滑川には、誰にも明かしていない秘密がある。
ある条件がそろえば、他人の身体を乗っ取ることができた。
条件は誰にも教えていない。活動の場でその力をほのめかすことはあっても、尋ねられると笑って話をそらした。
駅ビルのガラス越しに、知歩の姿が見えた。雑貨店の入口でスマートフォンを握り、誰かを待っている。通りかかった店員に声をかけられ、少しだけ肩の力が抜けたようだった。
滑川は、その顔を覚えた。
「……あの女だな」
つぶやきは、広場の雑踏に消えた。
知歩はまだ、自分に向けられた二つ目の視線を知らなかった。
本作品は、AI技術を用いて制作した創作動画・画像作品です。
演出、動き、表情、描写などに一部不自然さを感じる場面がある場合がありますが、AI作品ならではの表現としてお楽しみいただければ幸いです。
登場する人物・設定はすべてフィクションです。
登場人物は全員18歳以上の成人として設定された架空のキャラクターであり、実在の人物・団体・施設・地域等とは一切関係ありません。
本作品の無断転載、再配布、転売、加工、二次利用は禁止いたします。
本作品は、各種利用規約・ガイドラインを遵守した内容で制作しています。