沼倉知歩 22歳 大学生

フォロワー限定 メンバーシップ作品
お気に入り追加時、
クリエイターにユーザー名は通知されません

作品紹介

駅ビルの壁際で、沼倉知歩はスマートフォンを両手で持っていた。

〈ごめん、あと十分くらい〉

友達からのメッセージに〈大丈夫〉と返す。雑貨店のアルバイトがない夕方に、誰かと夕飯を食べる。それだけで今日は少し楽しみだった。

「待ち合わせ?」

顔を上げると、知らない中年の男が立っていた。

「……はい」

「お、写真よりかわいいね。こっち来る?」

知歩は一瞬、言葉の意味を考えた。それから小さく首を振った。

「あ、人違い、だと思います」

「え、違うの?」

「はい。友達を待ってるので」

男は立ち去らなかった。スマートフォンをしまい、知歩を上から下まで見た。その視線に、知歩はバッグを腹の前へ引き寄せた。

「じゃあ、いくらなの?」
「2とか3でどうかな」

「……そういうのじゃ、ないです」

「いいから。希望だけ言ってよ」

声を大きくするのが苦手だった。相手を遮ろうとすると、喉の奥で言葉がつかえる。けれど、曖昧にしたつもりはなかった。違うと、もう二度も伝えている。

「お断りします」

やっと言えた一言に、男が薄く笑った。

「そんな警戒しなくても。お茶だけでもさ」

知歩が横へ動くと、男も同じ方へ一歩寄った。

急に、周囲の話し声が遠くなった。

「……通してください」

目の奥が熱くなる。ここで泣いたら、ますます喋れなくなる。そのことが怖くて、知歩は唇を結んだ。

「待ってって。まだ何も——」

「やめてください」

自分でも驚くほど、声が震えていた。

男がわずかに足を止めた隙に、知歩はその脇を抜けた。背後から何か言われたが、振り返らなかった。駅ビルの入口へ、ほとんど逃げるように歩く。

自動ドアを通ってから、ようやく息を吐いた。

友達とのトーク画面を開く。指が滑り、何度も文字を打ち直した。

〈中の雑貨屋にいるね。迎えに来てほしい〉

送信すると、こらえていた涙が一滴、画面に落ちた。



その一部始終を、広場の反対側から見ている男がいた。

滑川。

「非モテおじさんを救う会」の代表を名乗っている謎のおじ、女性に拒まれた体験を集め、自分たちは不当に扱われているのだと繰り返す。

滑川自身も、女性から距離を置かれることが多かった。自分を「キモいおじ」と呼んで笑う。だが、相手がなぜ離れたのかという話になると、決まって機嫌を悪くする器の小さな男。

広場では、声をかけた男がまだ駅ビルの入口を睨んでいた。

滑川はそちらへ近づくことも、事情を聞くこともしなかった。

見ていたのは、逃げていく知歩の方だった。

断るまでの間。引き寄せたバッグ。泣くのをこらえた顔。

それを見て、滑川は思った。

——少しぐらい、相手をしてやればいいものを。

知歩が何度も断った声は、彼にも聞こえていた。それでも彼の中では、傷つけられたのは取り残された男の方だった。

滑川には、誰にも明かしていない秘密がある。

ある条件がそろえば、他人の身体を乗っ取ることができた。

条件は誰にも教えていない。活動の場でその力をほのめかすことはあっても、尋ねられると笑って話をそらした。

駅ビルのガラス越しに、知歩の姿が見えた。雑貨店の入口でスマートフォンを握り、誰かを待っている。通りかかった店員に声をかけられ、少しだけ肩の力が抜けたようだった。

滑川は、その顔を覚えた。

「……あの女だな」

つぶやきは、広場の雑踏に消えた。

知歩はまだ、自分に向けられた二つ目の視線を知らなかった。

本作品は、AI技術を用いて制作した創作動画・画像作品です。
演出、動き、表情、描写などに一部不自然さを感じる場面がある場合がありますが、AI作品ならではの表現としてお楽しみいただければ幸いです。

登場する人物・設定はすべてフィクションです。
登場人物は全員18歳以上の成人として設定された架空のキャラクターであり、実在の人物・団体・施設・地域等とは一切関係ありません。


本作品の無断転載、再配布、転売、加工、二次利用は禁止いたします。
本作品は、各種利用規約・ガイドラインを遵守した内容で制作しています。
続きはフォロー後に閲覧できます
メンバーシップ
公開作品9件
月額ポイント1,500pt
メンバーシップの
作品を見る

このクリエイターの新着作品

すべて見る

関連作品