作品紹介
後日、知歩はまた、駅前の壁際に立っていた。
手にはスマートフォンがある。時折画面から顔を上げ、通りを見渡す。その仕草は自然だったが、彼女自身の意識はなかった。
立つ場所も、顔を上げる間隔も、滑川が決めていた。
「待ち合わせ?」
聞き覚えのある声だった。けれど、それを思い出す知歩は、今ここにはいない。
男は、以前声をかけた相手だと気づいていなかった。あの日と同じように距離を詰め、画面を覗き込もうとする。
「……いえ」
知歩の口が、滑川の選んだ言葉を発した。
「じゃあ、ちょっとお茶でもしない?」
返事まで、不自然にならない程度の間があった。視線を落とし、小さく首を傾ける。人見知りして迷っているように見える動作だった。
男は話し続けた。
やがて知歩が小さく頷くと、男は嬉しそうに笑った。自分の話で警戒を解いたのだと信じたらしい。
知歩は男の後について歩き出した。
*
カフェでは、男がほとんど一人で喋っていた。
仕事のこと。若い頃のこと。最近の若者について。
知歩はカップに手を添え、時々相槌を打った。
「大人しいんだね」
「……あまり、喋るのは得意じゃなくて」
その答えさえ、知歩が口にしようと思ったものではなかった。
離れた場所にいる滑川は、これまで集めた写真や動画を思い出しながら、表情と仕草を調整していた。男はその控えめな反応を、自分に好意を持ち始めた証拠のように受け取った。
飲み物が残り少なくなると、男が身を乗り出した。
「このあと、ホテル行こうか」
「いえ……それは」
断る言葉が出た。
しかし、男は話をやめなかった。
「そんなに構えなくてもいいって」
知歩の顔が曇る。それでも、席を立った男に促されると、身体はバッグを持ち上げた。
滑川は、拒否の言葉と、それに反する動作を別々に与えていた。
男は都合のいい方だけを見た。
*
通りへ出てからも、男の口調は浮き立っていた。
「写真も撮らせてよ」
知歩は答えなかった。
「お手当なしでもいいの?」
冗談めかして笑い、返事を待たずに歩き続ける。
知歩の足は、その隣から離れなかった。帰りたいと判断する意識も、足を止める意思も、滑川によって閉ざされていた。
ホテルの入口が近づいたところで、知歩の口から、もう一度だけ言葉が出た。
「……やっぱり、帰ります」
男は一瞬こちらを見たが、すぐに入口へ向き直った。
「ここまで来たんだからさ」
その言葉で、何かが決まるはずはなかった。
それでも知歩の身体は、滑川の命令で扉を越えた。
男は、自分がうまく誘えたと思っていた。
知歩は、誘いを受けてさえいなかった。
そのまま遠隔操作される知歩
ホテルの部屋に入った瞬間から、男は息が荒かった。鍵をかけた手が脂っぽく、ドアノブに指紋が残る。知歩は部屋の中央で立ち尽くしている。目は開いているのに、焦点が合っていない。体だけが、頭の奥から聞こえる命令に従って動く。
「風呂なんていい。先に脱げ。全部」
男は何度も同じことを言った。焦っている。疑っている。金も払わずに、こんな女を部屋まで連れて来られたことが、どうにも信じられないらしい。
「まさか、美人局とかじゃないよな。途中で仲間が出てくるとか」
言いながらも、すでにベルトに手がかかっている。知歩の体が動いた。コートを脱ぎ、ブラウスのボタンを一つずつ外し、ブラを外す。スカートを下ろし、ショーツを親指で引っかけて下ろす。全裸になった知歩は、照明の下でただ立っていた。
男は喉を鳴らした。にやにやが隠せない。
「綺麗な乳しやがってヨォ笑」
手が伸びる。指が沈む。掌が広がり、重みを確かめるように何度も揉む。知歩の口から、自分のものではない甘い声が漏れた。
「んっ……あ……」
「声出せ。我慢するな」
男は服を乱したまま知歩をベッドへ押し倒した。肌と肌が触れる音。濡れた音。ベッドがきしむ音。知歩の吐息と、男の低い、辱めるような言葉が重なる。
「こんなに濡れてるのか。最初から分かってたんだろ」
「腰動かせ。自分から欲しがってるみたいにしろ」
「顔見ろ。今、めちゃくちゃいやらしい顔してるぞ」
「金も払ってないのに、こんなことさせてくれるんだな」
命令が来るたび、知歩の体は従った。仰向け。脚を開く。胸を寄せる。四つん這い。壁に手をつく。男が「そこで止まれ」と言うたびに固まり、スマホのシャッターが何度も鳴った。
「このポーズ。そのまま。顔もこっち向け」
「もっと開いて。隠すな」
「笑ってみろ。いや、そのままでもいい」
手にはスマートフォンがある。時折画面から顔を上げ、通りを見渡す。その仕草は自然だったが、彼女自身の意識はなかった。
立つ場所も、顔を上げる間隔も、滑川が決めていた。
「待ち合わせ?」
聞き覚えのある声だった。けれど、それを思い出す知歩は、今ここにはいない。
男は、以前声をかけた相手だと気づいていなかった。あの日と同じように距離を詰め、画面を覗き込もうとする。
「……いえ」
知歩の口が、滑川の選んだ言葉を発した。
「じゃあ、ちょっとお茶でもしない?」
返事まで、不自然にならない程度の間があった。視線を落とし、小さく首を傾ける。人見知りして迷っているように見える動作だった。
男は話し続けた。
やがて知歩が小さく頷くと、男は嬉しそうに笑った。自分の話で警戒を解いたのだと信じたらしい。
知歩は男の後について歩き出した。
*
カフェでは、男がほとんど一人で喋っていた。
仕事のこと。若い頃のこと。最近の若者について。
知歩はカップに手を添え、時々相槌を打った。
「大人しいんだね」
「……あまり、喋るのは得意じゃなくて」
その答えさえ、知歩が口にしようと思ったものではなかった。
離れた場所にいる滑川は、これまで集めた写真や動画を思い出しながら、表情と仕草を調整していた。男はその控えめな反応を、自分に好意を持ち始めた証拠のように受け取った。
飲み物が残り少なくなると、男が身を乗り出した。
「このあと、ホテル行こうか」
「いえ……それは」
断る言葉が出た。
しかし、男は話をやめなかった。
「そんなに構えなくてもいいって」
知歩の顔が曇る。それでも、席を立った男に促されると、身体はバッグを持ち上げた。
滑川は、拒否の言葉と、それに反する動作を別々に与えていた。
男は都合のいい方だけを見た。
*
通りへ出てからも、男の口調は浮き立っていた。
「写真も撮らせてよ」
知歩は答えなかった。
「お手当なしでもいいの?」
冗談めかして笑い、返事を待たずに歩き続ける。
知歩の足は、その隣から離れなかった。帰りたいと判断する意識も、足を止める意思も、滑川によって閉ざされていた。
ホテルの入口が近づいたところで、知歩の口から、もう一度だけ言葉が出た。
「……やっぱり、帰ります」
男は一瞬こちらを見たが、すぐに入口へ向き直った。
「ここまで来たんだからさ」
その言葉で、何かが決まるはずはなかった。
それでも知歩の身体は、滑川の命令で扉を越えた。
男は、自分がうまく誘えたと思っていた。
知歩は、誘いを受けてさえいなかった。
そのまま遠隔操作される知歩
ホテルの部屋に入った瞬間から、男は息が荒かった。鍵をかけた手が脂っぽく、ドアノブに指紋が残る。知歩は部屋の中央で立ち尽くしている。目は開いているのに、焦点が合っていない。体だけが、頭の奥から聞こえる命令に従って動く。
「風呂なんていい。先に脱げ。全部」
男は何度も同じことを言った。焦っている。疑っている。金も払わずに、こんな女を部屋まで連れて来られたことが、どうにも信じられないらしい。
「まさか、美人局とかじゃないよな。途中で仲間が出てくるとか」
言いながらも、すでにベルトに手がかかっている。知歩の体が動いた。コートを脱ぎ、ブラウスのボタンを一つずつ外し、ブラを外す。スカートを下ろし、ショーツを親指で引っかけて下ろす。全裸になった知歩は、照明の下でただ立っていた。
男は喉を鳴らした。にやにやが隠せない。
「綺麗な乳しやがってヨォ笑」
手が伸びる。指が沈む。掌が広がり、重みを確かめるように何度も揉む。知歩の口から、自分のものではない甘い声が漏れた。
「んっ……あ……」
「声出せ。我慢するな」
男は服を乱したまま知歩をベッドへ押し倒した。肌と肌が触れる音。濡れた音。ベッドがきしむ音。知歩の吐息と、男の低い、辱めるような言葉が重なる。
「こんなに濡れてるのか。最初から分かってたんだろ」
「腰動かせ。自分から欲しがってるみたいにしろ」
「顔見ろ。今、めちゃくちゃいやらしい顔してるぞ」
「金も払ってないのに、こんなことさせてくれるんだな」
命令が来るたび、知歩の体は従った。仰向け。脚を開く。胸を寄せる。四つん這い。壁に手をつく。男が「そこで止まれ」と言うたびに固まり、スマホのシャッターが何度も鳴った。
「このポーズ。そのまま。顔もこっち向け」
「もっと開いて。隠すな」
「笑ってみろ。いや、そのままでもいい」